あの日見たFlashの輝きは後世に伝わらない

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こんにちは、池田です。FLASHer アドベントカレンダーその2の25日分の記事です。

かつてFlashがウェブの中心にあり、多くのクリエイターによって生まれた華やかなインタラクティブ表現の世界。心を魅了したあの時代のコンテンツはいつか見れなくなる時が来るかもしれません。Flash Playerとコンテンツの永続性の2つの方面から心配していることをまとめました。

Flash Playerがブラウザで動かなくなる日

一つは昨今のブラウザがFlash Playerに対して厳しい姿勢を見せていることです。2016年秋にリリースされたSafari 10はFlashコンテンツを再生するかはドメイン単位での許可制になりました。それと同様の挙動をMicrosoft EdgeやGoogle Chromeが搭載しようとしています。実質シェア一番のChromeがこの挙動となるのは2017年秋(参照「Chromeブラウザの“Flash→HTML5デフォルト化”完了は2017年10月 – ITmedia ニュース」)。Flash Playerは許可制のまま数年は継続すると思いますが、セキュリティーや省電力を理由にJava AppletやUnity Web Player、Shockwave Player、QuickTime Player、Silverlightのようにブラウザ側でブロックされ、コンテンツが再生できなくなる時代がくるかもしれません。

消えていくウェブコンテンツとアーカイブ不可能なFlash

もう一つはウェブコンテンツの永続性です。Flashに限らずですがウェブコンテンツを維持するには費用がかかります。ドメインやサーバーを管理するための予算や、それを管理する団体がいつまで存続するかに依存します。

Flashが流行した2000年代後半はCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)と呼ばれる、ユーザー参加型のコンテンツが流行ってました。一例としてNECのエコトノハは代表的なコンテンツで、ウェブの可能性を感じ取った方は多いでしょう。CGM系のコンテンツは特に維持が難しく、ファイルの公開にかぎらず、ユーザー投稿に対する人員によるチェックを必要としました。管理や人件コストがかかるため期間限定の公開としていたサイトも多かったでしょう。一例として紹介したエコトノハは長い期間公開されていましたが、今はウェブサイトで見ることが出来ません

Internet Archiveには、過去のウェブサイトのほとんどが膨大な記録に収められています。ここでもFlashコンテンツもアーカイブされていますが、再生不能なコンテンツが多々あることに気づきます。FlashコンテンツはSWFという専用ファイルフォーマットで、一ファイルの中にグラフィックや画像、音声、動画、スクリプトを軽量に格納できるとても便利な仕様です。SWFファイルを公開するだけでコンテンツが体験可能になるため、手軽に作品を公開するには最適な仕組みでした。Flashが人気を集めたのも、その利便性が一つの理由だったでしょう。SWFファイルをキャッシュすればアーカイブ完了だと思えますが、実は話はそんな簡単ではありません。

多くのFlashコンテンツは読み込みを早くするため、あえてSWF一ファイルとせずに外部ファイルとして管理することが理想とされてきました。Flashサイトの多くはプログレスバーによるローディング表示があったことを皆さんは覚えているでしょう。ローディングの待ち時間を不満に思っていたユーザーは多いでしょうが、外部ファイルに分散することで初期ローディングの時間を短くするようにFlashクリエイターは最善を努めていました。ローディングの分散は容易ではなく、比較的複雑なスクリプトの実装を必要とします。

Internet Archivesはウェブサイトを解析することではじめてアーカイブされますが、Flashのローディング分散のスクリプトまでは解析できないため外部ファイルまでキャッシュされず、再生不能となってしまったのです。ユーザビリティーを改善するために取り組んだことが、皮肉にもアーカイブ不能にしてしまったのです。

崩れ行く蔵書、再生紙問題

話は変わりますが、かつて紙の世界では酸性紙問題がありました。洋紙に含まれる硫酸アルミニウムによって経年劣化し、半世紀以上たった古い蔵書が崩れていったというものです。1850年以降の洋紙に限ってこの問題が起きており、過去の文献が見れなくなると欧米や日本で問題とされたことがあります。現在は中性紙が使われてるので、紙面の保存については一旦の解決をみています。この酸性紙問題と同様にテクノロジーの理由によって、特定の時代のコンテンツを後世に伝えられなくなることは怖いことだと思っています。

フロッピーディスクを記録媒体としていた学生時代に、大学の先生から「長期保存したい文章は紙に印刷するといい」と教えられたことがあります。データは磁気によって消えてしまうかもしれないし、ソフトウェアが対応しなくなれば読めなくなる時代が来ると話していたことを興味深く覚えています。それを例にすると、インタラクティブコンテンツを永続的に保存するには動画が妥当かもしれません。動画であれば映像や音声など、ドメイン・サーバーに依存することなく永続的に見直すことができるからです。惜しむらくは、Flashが隆盛した時代に画面キャプチャーのテクノロジーが成熟・普及しておらず、動画で記録されたFlashコンテンツがあまり残っていないことです。また、ボタンを押したときに小気味よく動くインタラクションデザインやピコッという心地良い効果音…、操作した人だけが体験できるあの独特の「好さ」は動画で伝わらないと思いますが。

最後に

2000年代に流行したコンテンツの多くは旬だったFlashが使われました。マスコミ四媒体のうちテレビ以外の広告市場を抜くほどに拡大したウェブのビジネス。あの時代に高まりつつあったウェブへの注目と投資を背景に、高品質なクリエイティブが求められインタラクションデザインは大きく進化しました。現在、Flashコンテンツの需要はほとんどなくなりましたが、FLASHerアドベントカレンダーで他の人が紹介しているように、作り手がFlashで培った知見やセンスはHTML5やUnityなど類似のテクノロジーへと受け継がれていくでしょう。形を変え、新陳代謝を繰り返し、ウェブは常にアップデートされ歩んでいくはずです。しかし、10年後、50年後、100年後・・・後世から見たとき、この時代に生まれたFlashのクリエイティブは空白の時代となるのでしょうか。

投稿者 : 池田 泰延

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